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実践報告!暮らす力・変化に適応する力・をつけるためのトレーニングより、こちらの記事をご紹介します。

こだわり崩しにはこだわりを活用!~赤い靴ばかり履いているR君の事例~

 

コロロの教室では、「いつでも、どこでも、だれとでも」、生活していく力をつけるために、日々子ども達の療育に励んでいます。
ここでは、その実践の一部をご紹介します。

穴が空いても同じ靴下を履きたがる、長袖への衣替えができないなど、着衣へのこだわりがあるお子さんは多いです。

年長さんのR君も、赤い靴ばかり履いていました。

家で違う色の靴を履かせようとすると、ものすごい抵抗で外出もままならず、
お母様がこっそり捨てた赤い靴をいつの間にか持ってきて玄関に並べていたこともあったそうです。

”他人に迷惑がかかるわけではないし…・”と、やむなく赤い靴を履かせ続けていました。

しかしこの頃、着衣に限らず、こだわりは着実に増えており、例えば兄弟のお弁当箱と取り違えてしまった日に、
幼稚園でお弁当を全く食べられなかったなど、拒否も強くなっていました。

そういった様子から、このまま靴のこだわりが続けば、災害時や靴を取り違えたというような場合に、
「スムーズに外に逃げられない、出られない」ということも想定されます。

早めにパターン拡大・こだわり崩しをしておくことで、いざというときに困らずに生活ができるはずです。

お母様とも相談し、コロロで靴のこだわり崩しに取り組むことにしました。

まずはR君に気付かれないようこっそり黒い靴を持ってきてもらいました。

そして、R君がトイレに行っている隙に、朝履いてきた赤い靴は絶対に見つからない高い所に隠しました。

このまま、黒い靴を履いて歩行に行けたらと考えていましたが、コロロでも一旦拒否が出てしまうと相当な頑固さで、
例えば苦手な物を食べる練習の際に一度響成してしまうと、好きな物でも全く食べなくなってしまう様子があったため、
今回も「さあ、新しい靴を履きましょうね」と意識させることや、抵抗する身体を押さえて無理に履かせるのでは、上手くいかないと考えました。

そこで、次のような作戦を考えました。

「黒い靴を履いて缶ぽっくりをしよう」作戦

R君は、輪投げ、魚釣りゲームなど、彼にとって真新しくて少し難易度の高い課題への注視・反応が非常に良く、
日頃の活動の中で、「注視を引き上げたい」「ハッとさせたい」などの際に、時々取り入れていました。

一方で「やりたい」という反応が強過ぎて指名されていないのに飛び出してしまうことが見られ、
自分のやり方でしか取り組めず、教えようとすると抵抗を示して怒り出す様子も見られていました。

そのため、日頃は、”マイペースにならないように”ここだわりにならないように”と特に配慮して取り組んでいました。

しかしながら今回は、「缶ぽっくりをやりたい」というこだわりを上手く活用したら、
抵抗なく新しい靴が履けるかも・・と思案し、次のように取り組んでみることにしました。


①いつもの集会の流れから、靴と缶ぽっくり登場

イス着席での集会を開始しました。

数分経ち、着席注視しているところで、「これから何か楽しいことが始まるぞ」という雰囲気で、
用意しておいた黒い靴と缶ぽっくりを登場させました。

手際よくスタートラインとゴールラインにテープを貼ります。

ゴールラインは玄関近くにしました。スタートラインに黒い靴と缶ぽっくりを配置します。


②お手本になるお子さんから

まずはお手本になるお子さんを指名し、靴を履いてから、缶ぽっくりをするよう促しました。

R君は、お手本のお子さんを非常によく注視していて、「僕もやりたい」といった表情をしています。

今にも飛び出しそうです。

③いよいよR君の番

勝手に飛び出してしまうと、靴を履かないまま缶ぽっくりを始めてしまう可能性もあったので、
「手はお膝ですよ」の促しを適宜入れ、少し待つように促しました。

ただ、もうこれ以上は待たせないほうが良いと判断し、2番目にR君を指名しました。

さり気なく足元に靴を差し出すと自ら抵抗無く靴を履き、そのまま缶ぽっくりを始めました。

成功です!

このときの関わり方に、重要なポイントがあります。

R君は、缶ぽっくりを上手に使いこなすことはできておらず、数歩進んでは落ちてしまったり、
片足だけはめて進んだりといった様子でした。

しかし、この時介助はいつも以上に控えめにしました(触り過ぎない・止め過ぎない・声をかけ過ぎない)。

この時間の目的は、「黒い靴が履ける」ことです。

缶ぽっくりを教えることを優先として、触り過ぎたり促しをし過ぎたりすることで反発を招いてしまっては、
この流れからスムーズに歩行へ出られないと考えたからです。

④この流れのまま歩行へ

このまま歩行に出られそうだと判断し、もう一人の先生とアイコンタクトを取り、
母集団になるお子さんたちに靴を履かせ玄関で待っていてもらいました。

R君がゴール付近まで来た際に、私はさり気なく手をつなぎ、声かけはせず外へ誘導しました。

靴を気にすることなく、母集団と共に歩行へ出ることができました。

成功です!

この後、抵抗なく黒い靴を履いたまま歩行を続けることができました。



⑤午後の歩行では、缶ぽっくりを使わず黒い靴を履いて歩行に

一度きりの成功体験ではなく、もう少し黒い靴を履けた経験を重ねておいたほうが、
確実にお母様とも履いて帰れると思い、午後も歩行に行くことにしました。

念のために缶ぽっくりはすご出せるようにしておきましたが、R君の様子を見ていると、使用しなくても大丈夫そうでした。

リズム体操の流れのまま玄関に集団で向かい、抵抗なく黒い靴を履いて外に出られました。

⑥お帰り〜帰宅後の対応

母の手荷物の中に赤い靴があるのを発見すると「赤い靴を履く!」と思い出してしまうかも知れないので、慎重にお母様にお渡ししました。

また、「おうちに帰ったら赤い靴は絶対に見つからない所に隠すように」とお伝えしました
(本当は捨ててしまってもよいのですが、保険のため取っておくことにしました)。

お帰り直前までできるだけユアペースな状態で活動しておくことで、靴を履いて帰る際にもマイペースな要求が出にくいだろうと考え、
お帰り直前まで室内を手つなぎで二列歩行し、その流れのままお母様へ引き渡しました。

お母様とも黒い靴が履けて、帰ることができました!

最後に・・・この黒い靴も、慣れたらこだわりになるかもしれない、と考えておくことが大切

何でもパターン化しやすい、こだわりになりやすいタイプのお子さんの場合、
日頃から「慣れてきたら↓↓ちょっとしたパターン崩しを適宜行う」という視点が大切です。

物・場所・人・時間など、常にちょっとした変化を取り入れ、いつでも柔軟に応じられることを目指しましょう。

 

この記事をご紹介したのは…




コロロ発達療育センターはコロロメソッドを実践する療育機関です。

1983 年創立。自閉症、広汎性発達障がいなどの診断を受けた子どもや、
集団に適応できないなどの問題を抱える子どものための指導方法を研究・実践する療育機関で、
現在各地の教室で多くの子どもが療育を受けています。
コミュニケーションがとりづらい、問題行動やこだわり・パニックが頻発して家庭療育がままならないなど、
さまざまな問題に対し、独自の療育システム(コロロメソッド)による具体的な対応法・療育方法を提示し、家庭療育プログラムを組みます。
幼稚園や学校に通いながら、ほかの療法とも併せてプログラムを実践することができます。

コロロ学舎はコロロメソッドを実践する成人入所施設・放課後等デイサービス事業等を運営しています。

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コロロメソッドとは、40年に渡る療育の実践の中で得た知見から体系づけられた「ことばが増える・伝わる・問題行動が減る」療育プログラムです。

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