発達プログラム155号「感情コントロールと問題行動対応法」より
問題行動Q&A①耳塞ぎが頻発でイヤーマフを使い始めましたが、イライラが減りません
の記事をご紹介します。
「疲れているから」「ストレスがたまっているから」「思春期だから」など気持ちの推測をするだけでは、改善にはつながっていきません。
①耳塞ぎが頻発でイヤーマフを使い始めましたが、イライラが減りません
Q.息子(小2)はよく耳を塞ぎます。音が嫌でする時もありますが、音がそれ程しない時でも塞ぎます。
その手を解こうとやさしく声をかけたり、触ったりすると、さらに強い力で塞いで固まります。
時には私に掴みかかったり、後ろにひっくり返り、床に頭を打ち付けてしまう等、他害や自傷になることもあり、とても苦しそうです。
聴覚過敏にはイヤーマフがよいと勧められ、使い始めましたが、相変わらず他害や自傷は減らないのです。何か良い方法はないでしょうか?
A.耳塞ぎをする発達障害児者はとても多いです。
先日、中国からの見学者がコロロのDRを見て「イヤーマフをしている子が一人もいないのはどうしてですか?」と質問してきました。
聴覚過敏は障害特性の一つといってよいのですが、コロロではイヤーマフをつけなくても皆穏やかです。なぜそうなるかを説明していきます。
耳塞ぎをする原因は・・・?
音が聞こえると関節が曲がる(屈曲)
まず、耳塞ぎという行動がどのようにして起こるのか確認しておきましょう。
耳塞ぎのメカニズム
a.聴覚、視覚、触覚に過敏に反応しやすい時に(意識レベルが下がっている時に)
↓
b.音、光、触れられると
↓
c.(肘に)屈曲反射が起きる(関節が曲がる・ねじれる)
↓
d.耳塞ぎや物投げ、自傷、他害
↓
e.a~dが繰り返されて、条件反射になる、耳塞ぎをやめたくてもやめられない身体になる
コロロでは、耳塞ぎの原因であるこの聴覚過敏+屈曲反射にアプローチします。
耳塞ぎ自体への対応より、聴覚過敏や耳塞ぎの出にくい身体を作ることを日々の療育で行っているのです。
感覚過敏は必ず改善できる
では、どのようにアプローチをするのか。次のポイントを押さえて活動することで、過敏に反応する身体は改善していきます。
日々の生活で気を付けること
①意識レベルを下げない
ボンヤリとしたヒマな時間は意識レベルが下がります。それを作らないように、間断なく目と手と頭を使わせるようにします(学習・お手伝い・作業等)。
②刺邀の調整
聴覚や触覚に対して過敏さが出やすいので、声かけは最小限に、なるべく触らないようにします。
こうした場合、視覚的な促しが有効です。また大人の不用意な働きかけは、大きな反射を誘発しやすいため、要注意です。
つまり、耳塞ぎをしない時間を増やし、「耳塞ぎをしないでも安全」と身体が覚えるようにしていくことが大切なのです。
また、意識レベルを保ちつつ、反射の出にくい身体を作るには、トレーニングも必要です。
耳塞ぎのあるお子さんは、日常的に肘に屈曲が出やすいので、それに有効な方法も紹介します。
効果的なトレーニング
①手つなぎ歩行
・屈曲反射・接触反射の軽減
・1時間程度、淡々とリズムよく歩く。
ある程度歩けるが、肘の屈曲が出やすい時、持ち手の短い手荷物(本人にとって少し重め)を持って歩くとよい。
②行動トレーニング
・自分の身体を意識的に動かす、止める
・立位、正座、まぐろさん(仰向けの姿勢)等。
肘の屈曲が出やすい時は両手で籠を持ったり、手の甲にお手玉を乗せて肘を伸ばす意識づけをするとよい。
③学習・作業
・屈曲反射等の原始反射を抑制する上位脳(大脳新皮質)の活性化
・歩行で身体のリズムを整えてから、学習するとなおよい。
ご質問者の話をより詳しく伺うと、耳塞ぎだけでなく、ツバ遊びや指いじり等自己刺激の感覚に浸っていることも多いとのこと。
まずはこうした感覚に浸らず、目と手を使って時間を過ごせるようにすることが必要です。
意識レベルが下がりやすく、条件反射的に動いてしまう身体では、イヤーマフで耳塞ぎにだけ対応しても、根本解決になりません。
イヤーマフがいけないと言っているのではありません。使用したその結果に目を向けることが大切です。
安易な活用は発達をブロックすることにはならないでしょうか。
イヤーマフがなくても穏やかでいられる身体を作ってあげられるなら、その方法を考えるべきだと思います。
耳塞ぎが出たときの対応
注意して活動していても、耳塞ぎが出ることもあるでしょう。
出たらどう対応したらよいでしょうか?私が対応したT君の例を紹介します。
タイミングを見計らい目的行動を促す
一つの行動が持続しにくいT君がビーズ通しの作業をしていた時のことです。
ビーズを数個入れたところで、肘が屈曲して耳塞ぎ、机に肘をつき、前傾姿勢の状態に。
こうした意識レベルが下がっている時に、声掛けや接触のタイミングがずれると、より強い反発反射が出て危険です。
T君の力がちょっと緩んだ時を見計らって、サッと(力込めずに)腕を下ろし、すかさず紐を渡して、ビーズを視界に入るように提示しました。
するとT君はビーズ通しを再開しました。
途切れないようにしばらくビーズを手渡ししていくうちに、姿勢も盤い、最後までできました。
良い姿勢をキープしているのは、上位脳が働いている証拠です。
こうして手作業やお手伝い等で、視覚的にさりげなく目的行動を促すのは効果的な手段の一つと言えます。
強い耳塞ぎが出た時、こうした促しが上手くいかないこともあります。
その時は、本人の顔が上がった瞬間にサッと立たせて歩きに行ったり、水分を取る等、全く別のことや場所に促して、場面をガラリと変えるのも一つでしょう。
この記事をご紹介したのは…
集団に適応できないなどの問題を抱える子どものための指導方法を研究・実践する療育機関で、
現在各地の教室で多くの子どもが療育を受けています。
さまざまな問題に対し、独自の療育システム(コロロメソッド)による具体的な対応法・療育方法を提示し、家庭療育プログラムを組みます。
コロロメソッドとは、40年に渡る療育の実践の中で得た知見から体系づけられた「ことばが増える・伝わる・問題行動が減る」療育プログラムです。
詳しくは、ホームページをご覧ください。
コロロ発達療育センター
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